ホームセンターの園芸コーナーには、
もうアサガオの苗が出ています。
そういえば、小学校の一年生は、
四月の今頃にアサガオの種を蒔き、
一学期の終業式に、つるが伸びた鉢植えを、
家に持って帰って来るのでした。
今日はパリから帰ってきた若冲の絵を観に、
相国寺の承天閣美術館へ行って来ました。
相国寺は御所の北にあります。
御所の西南、出水の小川の里桜は遅咲きで、
しかも長い間咲いているから、四月の下旬でもまだ見頃。
花びらたっぷりの八重咲きで、葉っぱもついて、
遠目に見ると桜餅みたいです。
御所は今日から天皇皇后両陛下の
ご結婚五十年を記念した
特別公開が始まっているので、
広い御苑はたくさんの人で溢れ、
いつも程には広く感じません。
御所を北に抜けると相国寺。
相国寺法堂の天井の龍の絵は、狩野永徳の長男、光信の作。
どこから眺めても目が合う八方睨みのこの龍は、
高い足場を作って天井に直接描いたもの。
ずっと天井を見上げたまま筆を動かすなんて、
少しその姿勢を真似てみただけで、
肩が凝るし頭に血がのぼる。
この龍は「鳴き龍」としても知られ、
お堂の中で手を叩くと、その振動が伝わって、
カラカラカラと音がする。
上品に叩いていては駄目。
パンッと威勢よく叩かないと、この龍は鳴きません。
承天閣美術館では、パリで開催されていた
「相国寺 金閣 銀閣 名宝展」から帰ってきた
絵画や工芸品が静かに展示されていました。
若冲の絵はやっぱり面白い。
釈迦三尊像の脇侍や白象はちょっと笑っているようだし、
びっくり眼でピンッと跳ねた鯉と、
生まれたてみたいな、ひょろひょろの小さな龍。
これは、竜門を昇り切った鯉の次の姿でしょうか。
応挙もある。応挙の孔雀は尾羽が浮き出して見えるくらい
詳細に描き込まれているし、
大きな滝は頭上高くから落ち、しぶきをあげる。
そうそう、若冲は虎の絵もある。
これらの展示は九月六日まで。
まだまだ日があるので、ぜひ。
さて、来週はもうゴールデンウィークです。
錦・高倉屋の店頭には、
水茄子のヌカ漬が登場していると思います。
ぜひ、お立ち寄りください。
それでは。
平成二十一年 四月二十三日
錦・高倉屋 濱田千香
あの浮かれた陽気はどこへやら、
肌寒い日が続いています。
今日は京都の南、奈良県との境にある古寺、
笠置寺に行って来ました。
笠置と書いて「かさぎ」と読みます。
すぐ近くに木津川が流れています。
朝から雨がぱらつく曇り空。
本当は、ぱぁっと晴れた日に来たかったけれど、
前から予定していたから仕方がない。
車の窓から見上げる山には、野生の藤の花。
藤棚の藤もきれいだけれど、山の大木に絡みつく
ダイナミックな野生の藤も素敵です。
そこら中に巨岩がゴロゴロしている笠置山には、
弥生時代からの巨岩信仰が伝えられています。
登山口から急勾配の狭い道をヒヤヒヤしながら
しばらく走ると駐車場があり、
ここに車を置いて、まずは腹ごしらえ。
「松本亭」さんという料理旅館で、
キジの釜飯とおそばをいただきます。
窓の外は雨、そして、かなりの強風。
新緑のもみじが雨に打たれ、ざわざわと揺れています。
笠置山には巨岩とは別の、可愛らしい伝説がある。
道案内猫の「笠やん」です。今はもう亡くなっているのですが、
笠置山の修験道めぐりの道案内をしてくれていたとか。
人懐っこくて、たくさんの人に愛されていたそうです。
松本亭さんには、そんな笠やんの写真が飾られている。
お腹と鼻の周りが白い茶トラ猫。顔は大きく、下ぶくれ。
私は太ってドン臭い感じのする茶トラ猫を見ると、
幸せな気持ちになる。どうしてなのか分からないけれど、
「了解。すべて良好です」と言われた気持ちになるのです。
さて、雨は上がりそうにありません。
しかも、風がますます強くなり、傘などない方が
安全かもしれない、そんなお天気です。
笠やんの小さなお墓にお参りして、
一周八百メートル程の修験道めぐりを始めます。
しかし、驚いた。巨岩とは聞いていたけれど、
これはかなりの大きさ。見上げても見上げ切れないような
スケールのものもあります。
笠置寺の御本尊は、高さ十五メートル程の
花崗岩に刻まれた弥勒菩薩。
千三百年位前に刻まれたものですから、
今はぼんやりとその輪郭を残すのみ。
それにしてもこの高さ、どうやって刻みつけたのでしょう。
しばらく行くと、今度は虚空蔵菩薩。
こちらははっきりと姿が見て取れる。
山の斜面に刻まれた、大きな大きな虚空蔵菩薩。
ラッキーなことに、ほんの一瞬、雨が止み、
太陽の光が射し込んで、斜面が明るく輝いた。
これには思わず「おぉっ」と唸りました。
岩のトンネルをくぐる胎内くぐりや、
叩くと音がする太鼓石、手で押すと動くゆるぎ石など、
修験道めぐりは、ちょっとしたアスレチックコース。
難関なのが、狭い岩と岩の間を通る蟻の戸わたり。
雨で、傘で、ぬかるみで、結構神経を使います。
手や服を冷たい雨で濡らしながら、
ふと、こんなところを猫の笠やんが
先導してくれていたのだと考えると頬が緩む。
ようやく一周したかと思った頃に現れるもみじの公園。
ここは、秋の眺めもきっときれいなのでしょう。
さて、錦・高倉屋の店頭には、水茄子に続いて
瓜のヌカ漬が登場しています。
心地いい歯ごたえと、ほのかな酸味。
爽やかな初夏の味。ぜひお試しください。
それでは。
平成二十一年 四月二十六日
錦・高倉屋 濱田千香